インターネットにはたくさんのヘルスケア情報があり、
なかには間違った記事を読んで症状を悪化させてしまう患者さんに出会うことがあります。
ここでは、医療や健康に関する記事を書くときの注意点やコツについてご紹介します。
女性向けヘルスケア 記事を書くときの5つの注意点
残念ながら下記ような情報が民間療法を中心に広まっています。医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器の効果について間違った情報を流したり、大げさに宣伝することは法律に違反しています(注)。
そのため特に下記の5つのような記事を書くときには注意 してください。
*注:医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない (医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律:医薬品医療機器等法(旧薬事法) 第66条)(1)。
1.◯◯を「もむ」と体が良くなるという記事
体の一部を揉むことで健康になるという本は、いろいろ出ています。しかし、内蔵を体の表面から揉むことはとても難しいのが現実です。また、首などの血管は揉むことで血栓が飛んで悪影響が出ることがあります。
コクランレビュー(2015)では、背中の痛みに対するマッサージの効果として、「短期では痛みの改善効果を認めたが長期的な痛みの改善や機能改善効果は認めらなかった」としています。またマッサージ後に痛みが強くなった人もおり、下手にマッサージすることで症状が悪化してしまう危険性も報告しています。
今の時点では、臓器や体の一部を揉むことで体全体が健康になるという根拠は少ないのが現状です。
もしそのような記事を書くときは「どのような研究をしたのか」「根拠は何か」を調べて書くようにしてください。
参考情報
Furlan AD, Giraldo M, Baskwill A, Irvin E, Imamura M. Massage for low-back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews 2015, Issue 9. Art. No.: CD001929.
https://www.cochrane.org/CD001929/BACK_massage-low-back-pain
2. 子宮が「冷える」という記事
手足など体の先は冷えやすいですが、子宮はお腹の奥にあるため冷えることはありません(深部体温の方が温かい)。温めると子宮筋腫が小さくなるという記事もありますが、超音波を当てて子宮筋腫を小さくする(FUS:注)では、約65~85度の温度にし子宮筋腫の細胞を壊死させており、体の表面から温めただけでは子宮筋腫を小さくする効果は少ないです。
子宮が冷えることで不妊になりやすい、子宮を温めると妊娠しやすいという記事 もありますが、
もし「子宮を温めて妊娠率が上がるなら、気温が高くても妊娠率が上がる」ということになってしまいます。しかし季節の出生数に大きな変化はなく、日本では3月(7月妊娠)も11月(3月妊娠)も同じような出生数です。
今の段階では、気温や服装などで子宮が温まるというデータや、子宮を温めると妊娠率が高くなるという研究データはあまりありません。「子宮が冷える・子宮を温める」という記事を書くときは、どのような根拠があるか確認をしてください。
深部体温が39度以上になると、胎児奇形が増えるという研究報告もあり、温めすぎにも注意してください。注:FUS Focused Ultrasound Surgery (集束超音波治療器)
日本の月ごとの出生数 2016年(点線)と2017年(ぼう線)
人口動態総覧,年次・月別 厚生労働省 2017年
参考文献 高熱と胎児奇形リスク
Ravanelli N, et al. Br J Sports Med 2018;0:1–8.
http://press.psprings.co.uk/bjsm/march/bjsm097914.pdf
3.免疫力を「アップする」という記事
免疫をアップできる方法は今のところ報告されていません。予防接種をうつことで、特定の微生物に対して免疫をつけることはできますが、免疫力を全体的に上げる食品は認定されていないのが現状です。特定の食品やサービスを使うことで「免疫力がアップする」という記事を書くときは、どのような研究がされているのか、ちゃんと根拠があるか調べる必要があります。
食品安全委員会 https://www.fsc.go.jp/osirase/kenkosyokuhin.data/kaniban.pdf
参考文献
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所所:「健康食品」の安全性・有効性情報
https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/index31.html
ビタミンについての解説
https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/index32.html
4.「甘い物は乳腺炎になる」という記事
甘い物や脂肪分の多いものを食べても授乳や乳腺炎には影響しないと言われています。母乳は、お母さんの血液から作られており、87%が水分です(図)。食べた物が原因でおっぱいが詰まることはありません。授乳中は脱水になりやすく、脱水になると母乳が出にくくなってしまいます。そのため、授乳中は水分を大目に飲むことが勧められていますが、甘い物や脂肪分は無理に控えなくても大丈夫です。
*注:アルコールや一部の薬は母乳に出てくるので注意が必要です。
母乳の87%は水分です
図:Front. Pediatr., 16 October 2018 | https://doi.org/10.3389/fped.2018.00295
5 「◯◯をたくさん食べる/飲むと体に良い」という記事
サプリメントや自然食品は、健康な生活をおくるための栄養素を補うのに役立ちます。
しかし栄養素の中には1日に必要とされる量が決まっており、それ以上取りすぎると逆に体に悪影響になるものがあります。
例えばビタミンAは、沢山とりすぎると頭痛やめまいの原因に、妊娠初期には赤ちゃんの奇形リスクが高まります。ビタミンDのとりすぎは、食欲がなくなったり、多尿、不整脈などがおこります。ビタミンCの中毒では、腹痛・下痢・吐き気が出てくることがあります。
参考
サプリメント・ビタミン・ミネラル 「統合医療」情報発信サイト 厚生労働省
http://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/index.html#c03
日本人の食事摂取基準2015 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
ヘルスケア記事をかく5つのコツ
1.参考文献・引用文献を最後につける
医療や健康に関する情報は、間違った情報を流すと大変です。
どのような情報を参考に書いたかを明記することで、記事の信頼度が高くなります。
詳しく知りたい人のためにも、参考文献の情報を最後につけましょう。
2.ガイドラインや学会からの情報を読む
医療や健康の記事を書くときは、ガイドラインや学会からの情報を参考にすると信頼性が高くなります。
後半に、女性の健康記事を書くときにおすすめの情報源をまとめましたので参考にしてください。
3.体験談や聞いた話を載せないようにする
体験談や聞いた話は正確ではありません。その人には効果があったかもしれませんが、
「別の人」や「その他大勢の人」にも効果があるかどうか分からないからです。
そのため体験談や聞いた話、ブログや噂などから自分なりに解釈してすすめるのは危険なことがあります。
医療広告ガイドラインや医薬品医療機器法(旧薬事法)では、効果・効能に関する体験談や口コミ情報を掲載することが禁止されています。
*注:医療広告ガイドラインは、医療施設の広告が対象となります。
4. 商品やサービスの宣伝に注意する
「この◯◯が健康に良い!」という記事 を書くときは注意が必要です。
効果に関してちゃんとした研究がされているか、論文がでているか、調べて書く必要があります。
5. 専門家の人にチェックしてもらう
医療や健康に関する情報は、日々新しい研究がでており自分だけでは、なかなか記事の情報すべてをチェックするのは難しいことが多いです。医療者(専門家) や先輩に内容を見てもらいアドバイスをもらうと、より良い記事になります。
女性の健康記事を書くときにおすすめの情報源
・産科・婦人科の病気について 日本産科婦人科学会
http://www.jsog.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=1
http://humanplus.jp/
・女性の病気について 日本女性心身医学会
http://www.jspog.com/general/index.html
・不妊治療について 日本生殖医学会
http://www.jsrm.or.jp/public/index.html
・統合医療(健康食品・サプリ・ヨガなど)について 厚生労働省
http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/about/
・ガイドラインのまとめ 日本医療機能評価機構
https://minds.jcqhc.or.jp/
・がん情報サービス 国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/index.html
参考文献
・医薬品等の広告規制について 厚生労働省
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の解説
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/index_a.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/koukokukisei/index.html
・医療広告ガイドライン 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000209841.pdf
・医薬品医療機器等法に関する 適正表示ガイドライン 平成27年2月
一般社団法人 日本スポーツ用品工業協会 スポーツ用品公正取引協議会
http://www.jaspo.org/ABOUT/yakujihou.pdf
<アドバイスいただき修正・追記した記録です>
・2019/01/05 出産時期:妊娠から約9ヶ月で出産となります。読者の方からご指摘いただき修正しました
・2019/01/06 薬事法は旧名のため削除しました。 現在医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律となっています。
・2019/01/07 もし「子宮を温めて妊娠率が上がるなら気温が高くても妊娠率が上がる」ということになってしまいます。今の段階では、気温や服装などで子宮が温まるというデータや、子宮を温めると妊娠率が高くなるという研究データはあまりありません。という文章に修正しました。
・医療広告ガイドラインや医薬品医療機器法(旧薬事法)では、効果・効能に関する体験談や口コミ情報を掲載することが禁止されています。 という文章に修正しました。
< WST : Women’s Support Team >
女性の応援隊 今年もよろしくおねがいします!
■イラスト■ 春柴
■執筆アドバイス■ 齋藤 宏子
帝京大学大学院公衆衛生学研究科公衆衛生学 博士後期課程
■執筆■ 柴田 綾子 淀川キリスト教病院 産婦人科医
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