妊婦さんから赤ちゃんにバイキンがうつることを「母子感染」といい、下の3つがあります。
①赤ちゃんがお腹の中で感染する(胎内感染)
②お産の際に感染する(産道感染)
③母乳によって感染する(母乳感染)
セックス(性交渉)によってうつる梅毒、HIV、クラミジア、淋菌などの性感染症、
唾液や咳などで感染する風疹など、いろいろなバイキンが赤ちゃんに感染します。
妊娠中にセックスをするときは、コンドームを使って赤ちゃんへの感染を予防しましょう。
ここでは、2015年から妊婦さんに急増している梅毒について詳しく説明します。
*注:風疹の詳細に関しては以前の記事をご覧ください。https://lavoon.com/2018/12/15/rubella
妊婦健診で感染症をチェックしよう
妊婦健診では、血液検査で①B型肝炎、②C型肝炎、③風疹、④梅毒、⑤HTLV-1、⑥HIVを調べています(1)。
また、内診のときに子宮の入り口のクラミジア検査も行っています。これらは、お母さんから赤ちゃんにうつったり、赤ちゃんに悪さをする感染症だからです。お子さんがいる方はご存知の通り、妊婦健診は母子手帳についている「補助券」を使うことで安く検査を受けられます。妊娠したら、お住まいの市町村役場に母子手帳と健診補助券をもらいにいきましょう。
*注:施設によってはトキソプラズマやサイトメガロウイルスも調べています
ブツブツがでてきたら梅毒と風疹に注意
梅毒も風疹と同じく、感染者が急増しています。4~5年前に比べて4倍以上もの人が感染しており、
5,000人を超えたそうです(2017年 総数 5,820人)。
参考:厚生労働省 性感染症報告数https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html
妊婦さんが梅毒にかかってしまったら…
妊婦さんが梅毒にかかると、胎盤を通して「梅毒トレポネーマ(病原体)」が
お腹にいる赤ちゃんに感染することがあります(これを胎内感染による先天梅毒といいます) 。
先天梅毒では、赤ちゃんの皮膚、眼、耳、歯に病気がでることが多く
①生後間もなく症状が出る場合(早期先天梅毒)
②学童期以降に初めて症状が出る場合(晩期先天梅毒)
があります(3)。
日本では、2015年から妊婦さんの梅毒感染が急増しています。
梅毒を未治療のまま放置すると約40%の赤ちゃんが死産または出生直後に死亡する可能性があります(4)。
妊娠中であっても抗菌薬で治療を行うことができ、先天梅毒はほぼ防ぐことができます。
分娩4週間前までにきちんと治療が終わっていれば、赤ちゃんへの感染をほぼ予防することができます。
参考:厚生労働省 梅毒の発生動向の 調査及び分析の強化についてhttps://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000203809.pdf
梅毒:皮膚の手足や口の中のブツブツに要注意!
セックスで梅毒に感染すると、約1~3ヶ月の間に口の中や陰部に硬いしこりや潰瘍ができ、手足や体に赤いブツブツがでます。足の付け根のリンパ節が腫れることもあります。感染から1年が経過すると自然と症状がおさまることがありますが、治ったわけではありません。未治療で放置した場合、体のいろいろなところが病気となり、数年後に障害がでてきます。
梅毒の検査と治療
梅毒の検査はどう行うのでしょうか。妊娠初期には血液検査で行います(2種類の抗体検査を組み合わせて判定します)。また、皮膚のブツブツや潰瘍を綿棒でこすり、病原体(梅毒トレポネーマ)がいるかどうかをみる方法もあります。
梅毒の治療は、抗菌薬の内服を2~12週間おこないます(4)。妊婦さんでも安全に飲める薬なので、妊娠していても治療内容は同じです。梅毒が治療できたかは、血液検査を再度おこなって確認する必要があります(5)。
パートナーも検査と治療が必要です。
自分が梅毒であった場合、セックスパートナーにも感染している可能性があるので検査、治療が必要です。必ず検査をしてもらうようにしましょう。市町村の保健所ではHIV検査や梅毒の検査を匿名かつ無料で行えるところがあります(2)。
セックスをするときはコンドームを使いましょう
梅毒はHIV、クラミジア、淋菌などと同様に性感染症です。普段の生活で感染することは、ほぼありません。そして、セックスのときにコンドームを使用することで感染を減らすことができます(ただし、コンドームを使っていても梅毒を100%予防することはできません)。アナル・オーラルセックスでも感染することがあることも知っておきましょう。口唇、咽頭、肛門などの粘膜や小さな傷口から性感染症となるばい菌が入り感染することがあります。感染を放置すると、症状が悪化してしまうので、もし気になる症状がある場合は病院や保健所へ行って検査を受けましょう。
もっと詳しく知りたい方へ
・コンドームの正しい使い方漫画「ラブ活☆はあときゅるり」 ジェクス株式会社
コンドームは正しく使わないと効果が半減してしまいます
正しい使い方を解説している動画です
https://youtu.be/6I0BCsuCIUU
http://www.jex-inc.co.jp/learn/condom/how-to-use/
・風疹と梅毒の違い: ブツブツの感染症
*風疹はウイルスが原因で、感染すると抗体ができるため、再度感染することはあまりありません(終生免疫)。この特徴を利用して、弱毒化したワクチンを接種すると、体内で抗体がつくられ、感染を防げます(予防接種)。ただし生ワクチンのため、妊娠中は接種できません。*梅毒は梅毒トレポネーマという細菌による感染症で、抗生物質で治療できる疾患です。血液検査で梅毒を調べる抗体はつくられますが、終生免疫は獲得できません。一度治療したあとでも再感染することがあります。なお、梅毒の報告数では初回感染と再感染を区別しておらず、感染者の実態を正確に反映できていませんが、厚生労働省の資料によると同性間の感染より男女の異性間での感染者数も多いことがわかります。 http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/iasr/36/420j.pdf
参考資料
1.母子感染について 厚生労働省のパンフレット
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/06_1.pdf
2.厚生労働省 梅毒に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku- kansenshou/seikansenshou/qanda2.html
3.日本性感染症学会 性感染症 診断・治療・ガイドライン
http://jssti.umin.jp/pdf/guideline-2016.pdf
4.日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会,産婦人科 診療ガイドライン~産科編2017
妊娠中の梅毒スクリーニングと感染例の取り扱いは? p381~
http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2017.pdf
5.日本性感染症学会 梅毒診療ガイド
http://jssti.umin.jp/pdf/syphilis-medical_guide.pdf
■執筆■ 福井 陽介
大和高田市立病院 産婦人科 医員
同附属看護学校 非常勤講師
■イラスト■ 春柴
■監修■ 柴田 綾子
淀川キリスト教病院 産婦人科医
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